HIMMELは、銀河団とその周辺の大規模構造に沿って、星形成の材料となる冷たいガスがどのように供給されていたのかを明らかにしようとするプロジェクトです。銀河団の周囲には、銀河が線状につながったフィラメント状の大規模構造が広がっており、それに沿って中性水素ガス(HIガス)が銀河団へ流れ込むことで、爆発的な星形成が引き起こされたと考えられています。しかし、このHIガスを遠方宇宙で直接観測することは困難です。
そこでHIMMELでは、広視野カメラに搭載した狭帯域フィルターのペアを用い、遠方の星形成銀河から放射される複数種類の水素輝線(例えばLyα輝線とHα輝線)を捉える手法を用いています。Lyα輝線は中性水素ガスによって散乱されやすい共鳴線である一方、Hα輝線は影響を受けにくい非共鳴線です。そのため、銀河の周囲にHIガスが豊富に存在する場合、Hα輝線は観測できてもLyα輝線は吸収を強く受けて弱くなる、あるいは見えなくなります。そこで、Lyα輝線銀河とHα輝線銀河の個数比、あるいは両輝線の強度比を比較することで、直接見えないHIガスの分布を間接的に調べることができます。
さらに、この観測をすばる望遠鏡を用いて銀河団周辺の広い領域にわたって行うことで、大規模構造に沿ってHIガスがどのように分布しているのか、またHIガスと星形成活動との関連を探ります。すなわちHIMMELは、星の燃料である冷たいガスが、宇宙の巨大な構造の中をどのように流れ、どこで銀河の成長を支えているのかを描き出そうとするプロジェクトです。
今後は、TAO望遠鏡の広視野カメラSWIMSにも本観測に適した新しい狭帯域フィルターが搭載される予定です。これにより、銀河形成最盛期(約110億年前)における銀河団と大規模構造をより広範囲かつ網羅的に観測し、HIガスの降着過程とそれが星形成活動をどのように引き起こすのかを明らかにします。
COSMOS領域のz=2.23にある原始銀河団とその周辺領域。赤丸がHα輝線銀河、青十字がLyα輝線銀河を示す。コントアは銀河の密度を表しており、原始銀河団のコア、その周りに繋がるフィラメント構造や銀河群、比較的低密度なフィールド領域が見られる。密度の高い領域ほどHα輝線銀河が主体でLyα輝線銀河はほとんど見られなくなることがわかる。これは高密度領域に中性水素ガスがより多く集まっており、Lyα輝線を散乱・吸収しているためと考えられる。